単発である事の利点

 エンジンが一基である事は安全性の面でリスクを高める事がある一方で、コストの低減という意味で大きな利点が存在する。最も高価な部品であるエンジンが一基であれば当然機体単価は低下する、これがVF-7の開発にGGが踏み切った最大の理由である。
 これは通常の航空機でも同様にいえる事であるが、移民惑星においてはさらにもう一つの利点を持っている。維持費、それも非開示技術に関わるものである。

 従来の可変戦闘機は、最大の重量物であるエンジンをスネという運動時に最も振り回される部分に搭載していた。
 そのためバトロイドモードにおける重心は非常に低く、VF-1のそれは股関節下あたりに存在する。しかも歩行のために一歩足を踏み出すたびに大重量のスネを振り上げ、振り下ろさなければならない。これを巨人との格闘に耐えうるだけの運動性を与えるために慣性制御技術を適用して補完を行っている。

 ところが実際に歩行を行わせるためには各々独立したエンジンの制御系のみでは調律がとれないため、それを統括するもう一つのシステムが必要とされ、通常胴体内に全体の運動を司るもう一つの制御系であるICSBS(慣性制御系同調装置)を搭載して調律、機体全体の運動を制御している。双発機には2基ではなく都合3基の慣性制御系を搭載しているのである。

 一方で統合中央政府は移民惑星に対するこれら高等技術の開示については消極的であった。それもそのはず、多くの移民惑星は自立可能性を考え生活圏としての環境とともに資源の埋蔵量においても有望な所に建設されているのであるから、そのまま無分別に技術や情報を与えては中央政府側には取引材料がなくなって移民惑星内で自給自足が成立してしまう。
 それを放置して見過ごせば中央は収入を得る所がなくなってしまう。結果として人類文明自体の分裂を引き起こす可能性を内包しかねない。稼げる所で稼ぐのも自然な話である。

 このような事から移民惑星が従来の兵器を使っている限り規制情報に関わる装置の維持には必ず中央政府のマージンが介在する事となる。これはどうあっても中央の言い値になるために費用がバカにならない。早期の自立を望む移民惑星政府としてはこれを低減できる事が大きな魅力でもあり、それが一気に2分の1や3分の1に低減できるとあれば渡りに船とばかりに飛びつくのも理解できる話である。移民惑星という市場にとって単発化の魅力は単価や整備マンアワーだけでなく、このような所にも存在していたのである。

 一方のGGでも利点があった。というのも、双発であると3基の慣性制御系に加え、それぞれの機体特性にあわせた調律のために非常に複雑なプログラミング作業が必要とされるのである。それが1基で済み、さらにVF-7ではそのシステムが機体全体の重心位置に非常に近い所に存在しているという利点が存在するのである。これは結果として今後の機体のアップデートや能力向上が非常にやりやすいという事につながってくるのである。
 そして足首周りの接地システムが推進系と分離されたおかげで、より柔軟で緻密な対地蹴力制御が出来るようになり、バトロイドモードにおいて移民惑星が求めるような、治安維持等に適したより繊細な運用が可能となったのである。


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